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2006年8月26日 (土)

冥王星と幽王星

「科学画報」1930年10月号に、野尻抱影(1885~1977)の「新惑星の邦名に就て」という一文が載っている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060825-04665775-jijp-soci.view-001

これを画像から、テキストに起こしたものを一部引用する。不鮮明なプリント(上記リンクとは別)を寝惚け眼でやっつけたシロモノなので、誤字脱字は容赦されたい。旧かな使いはそのまま打ったつもりだが、すぐに出てこない漢字は新字体で妥協している。読み取れなかった部分は多分この字だろう、と思い込み100%で補った。

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 新惑星の邦名に就て 野尻抱影

 甚だ僭越な提案ではある。しかし、これが永い将来を率ゐることなら、一応愚見を披瀝して置くのも失礼ではないと思ふ。
 新惑星の名が、ロオウエル天文台で、"Pluto"と決定されたのは、果たして世界中の天文家の興味と期待とを裏切らなかった。神田氏が本誌九月号で「ギリシア神話の暗闇の神であり、新惑星の光度が想像より遥かに小さい点に於ても相応しいものであらう」と言はれてゐるのも、十分頷かれる理由である。しかし、これを我国に採用する場合には、前例もあること、当然「――星」の訳名で決定さる可きではないだらうか。既に当事者の間で「プルート」と命名されたのだとすると、聊か不統一の憾みがないだらうか。
 私は思ふ。ロオウエル天文台でPlutoに決したに就いては、これが、既に惑星の名となってゐる天神Uranusには孫で、Neptuneとは兄弟に当る神であることをも考慮に入れてゐたに相違ない。
(中略)
 かうして神とては互いに密接な関係が、星として彼の先輩である二惑星が和名を名乗つてゐるのにだけが片仮名で呼ばれるのはどうだらうか。否全体の惑星の名に対しても統一を破つてゐると思ふのは私だけだらうか。以上、甚だ判りきつた理由で再考を仰ぎたいのである。小遊星乃至各惑星の衛星の名はあれで統一されてゐるので問題はない。
 プルートーは申すまでも無く地獄の王であるが閻魔王から想像すると、青い、陰欝な、そして高貴な顔の印象が大分相違してゐる。仮に訳名を提案してみれば、冥王星(Meio-sei)か幽王星(Xuo-sei)であらう。これなら天王星及び海王星に対して、母音の響きもさう悪くないやうである。遠く幽かな意味に力を置けば、幽王星の方だらうか。しかし、これも勿論一民衆の一偏見に過ぎない。
 もし、「プルート(ー?)」が、まだ仮の邦名に留まるなら喜ばしい。私は妄言多罪をお詫びして、鶴首してその確定発表の日を待つことにする。
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この文章、なかなか面白い。

例えば、近代以前より知られていた天王星、海王星と異なり、冥王星は日本においてプルートという片仮名言葉で紹介されていたことがわかる。

つまりてっきり最近の話だと思っていたカタカナ言葉の氾濫は、76年も前からずっと問題になり続けてたって訳だ。ハレー彗星もびっくりだ。戦時中に外来語を「敵性言語」として厳しく取り締まったという話はよく聞くが、もしかするとその辺の反動もあったのかも。

# 外国語をそのまま持ち込まず漢字を組み合わせて新しい言葉を作り出す、その文化的な活力は既に失われていたのか…とか。

中盤は事実の再確認でしかないが、そこから後半にかけては、野尻氏の詩的想像力が存分に発揮された素晴らしい煽り文句だと思う。なかなか、良いなぁ。

しかし、冥王星。
ひとつ間違えば「幽王星」と呼ばれてたかも知れなかったのか…ううむ。イメージ、かなり変わってたな。


そうそう。

ご存知の通り、一昨日のIAU総会において冥王星は「惑星」の座から滑り落ちました、が。けれどねぇ、別に冥王星が消えて無くなる訳でもなし、正直騒ぎすぎかと。

「カモノハシって卵だしクチバシあるから鳥類に分類してたけど、やっぱり哺乳類にしとくんで今度からよろしく」レベルの話だよなぁ。

人間が勝手に騒いでるだけだよ、まったく。

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